悠太が自動ドアをくぐると、彼女は必ず「こんばんは」と言ってくれた。
たまには「お疲れ様」「頑張ってるね」とも言ってくれる。
その笑顔のために、いくらでも走れる、と悠太は思っていた。


毎日限定ドリンクをレジに差し出す悠太に、ついに彼女の方から話しかけてきた。

「それ、いつも飲んでるけど、おいしいの?」

限定を売りにしている店側の人間としては、ちょっとおかしな質問だ。
悠太は思わずふき出した。

「いや、ウマいって言うか・・・まずくはないっす」

その答えに、今度は彼女がふき出した。

「最初は限定ってとこに惹かれて飲んでたんだけど、なんとなく、クセになってきて」

本当はこのコンビニに来るための口実です、とは言えない。
スポーツドリンクなんてどれも似たり寄ったりだから、その程度の感想しか出てこなかった。

だが、これをきっかけに、悠太は彼女とそこそこ話を出来る仲になった。

彼女は結城 佳織という名前で、市内の高校に通う3年生―――18歳だと分かった。

高校生がこんな遅くまでバイトできるのかと聞くと、通っている高校はそんなに校則が厳しくないし、何よりこのコンビニの2階が自宅なのだというのがその種明かしだった。