LOVE or DIE *恋愛短編集*

あの日、フェリーで最初に彼を見つけたのは真希だった。
私が彼の顔を見たのは、その時が初めてだ。



――中塚弘樹。

その名前の存在に先に気が付いたのは、私の方だ。
真希には秘密の、私だけの楽しみだった。




学生時代二度目の旅行で訪れた鹿児島で、本土最南端の佐多岬へ行った時。
展望台の螺旋階段の壁に、その名前はあった。


びっしりと書き込まれた来訪記念の落書きの中、ひときわ目立っていたのはその書き込みが見るからに新しいからで。

日付はちょうど『その日』だった。



『ねえねえ! この人来たの、今日だよ今日!!』


書き込みを見てテンションを上げた真希は、多分その奇跡の本当の意味に気付いてなかった。

彼女は名前よりも日付や書いてある内容の方ばかり見ていたし、多分その名前を見るのも初めてだったと思う。


『バイクで日本一周中だって! この人も端っこ巡ってるよ!』


制覇した先を主張するように順番に記されている。

本州最南端、和歌山潮岬。
本州最西端、山口毘沙ノ鼻。
四国最北端、香川観音岬。
四国最南端、高知足摺岬。


初めての旅行でめぐった四国の岬の名に、真希はひどく興奮していた。


『同じことしてる人いるんだねぇ!』



大学3年の夏だった。


佐多岬は、駐車場から展望台までジャングルみたいな道を長々と歩かされたから。

多分真希は、もし見ていたとしても、忘れていたと思う。

その日私たちの車がそこに着いた時、派手な色のバイクが、ちょうど駐車場から出て行ったことを。