ねぇ………、
あんた生きてる?
ピピピピッピピピピッピピピピッ…
……嗚呼、鬱陶し……ガンッ!目覚まし時計ほど鬱陶しいモノはない、と思う。
けれど、起きないわけにはいかなかった。 シュルッ
白過ぎるシャツのボタンを留め、これでもかという位ひだのついた緑のタータンチェックのスカートをまとい、ハイソックスをはく。そして、深緑のネクタイを結んだ。階下に降りてゆく。
「今日もごはん美味しいね。」
「ありがと、那都(なつ)~♪」
まぁ、本当に百合ちゃんのごはんおいしいんだけども。あ、百合ちゃんってのは、あたしの叔母にあたる人。
トントン…あ、京が降りてきた。早く出なきゃ。「行ってきます、百合ちゃん」『言ってらっしゃーい!』後ろを振り向くと百合ちゃんと京。ふたりとも、ニコニコして…あたしなんかのために。
(市立葉山高等学校)と彫られた門をくぐり、1-Cの窓際の席に座った。
窓を見ると、桜の葉が青々と輝いている。初夏。
前を向き、カバンからペンケースを取り出し、インクのよく出る真っ青なペンを取り出した。ノートを出し、書く。
あたしは今日も元気です。
それだけ書いて、ノートをカバンの奥にしまった。「おはよー」「はよー」ザワザワ…
皆が登校してくる時間。「京はよー」「藤峰くん~おはよっ!」「京くん!」きゃあきゃあ言われながら京が来た。
あたしと京が従兄弟ってことを皆は知らない。てか、隠してる。京はカッコ良くて皆に人気だからねー。
一限目のつまらない授業を聞き流しながら今日も考えてた。
…あれは、あたしが中学生になりたての頃だった。
家が火事になって、あたしは怖くて動けなくてもう、死ぬかもと思った。
そこに、見知らぬ女の人があたしに手を差し延べた。そしてあたしは、助かって母と父は燃え盛る炎の中に消え、家族はあたし一人になった。
あの女の人は、親戚の誰に聞いても分からなかったが、野次馬の人達は彼女を見ていたらしい。
が、彼女が誰かは分からないままだった。その時彼女は
「ねぇ……、あんた生きてる?」
と、聞いたのか呟いたのか、言った。
彼女は線の細い長身で、髪も長い、少し日焼けをした肌色の30代位の女の人だった。
これ位しか覚えてない。
キーンコーンカーンコーン……
昼休み。
1-Cに他の学年やクラスの男子達が集まってきた。あたしは、それを尻目に既に屋上への階段に足をかけた所だった。
あたしは何かと目立つ容姿だからか、あたし目当てに集まった、奴らだった。
屋上にはあたしの親友が待っていた。「那都~」
「凛」
彼女は、花沢グループのお嬢様である。いくつもの会社をもつ、日本で10番目位のグループ。
そんな彼女は、アルビノである。
色素が作られず肌は陶器のように真っ白で、髪は白髪に近い金髪、目は薄いグレーと緑が混ざっている。
母親がロシア人でハーフでもあるので、非常に妖艷で美しい。
凛は日陰に隠れ、そんな見た目とはかけ離れた焼きそばパンとハンバーガーをバクバクと頬張っていた。
「やっぱ、いつ見てもシュールだよね、凛は」と、思わず頬を緩めると、
「えー!そうかなぁ」と、焼きそばパンとハンバーガーを詰め込んで膨らんだ頬を余計に膨らませた。
「可愛い顔が台無し、凛」
と言うと、あたしも弁当箱を開き百合ちゃんお手製のタコさんウインナーから食べ始めた。
「やっぱ、いつ見ても百合さんのお弁当は美味しそうだねぇ…」
「本当に美味しいからね。」
「いいなーー」
「あげないからね」
「えー那都のけちー!!」
「はいはい」
「でもそんな那都も好き!!」
「…」
「なんでだまるの~!」
あたしと凛はお互いの目を見て、そしてわらった。凛は、周りにきらきらが飛ぶように、柔らかにわらう。凛のわらい方が好き。
「ねぇ、那都ー私、明日ここに京連れてきていい?」
「あたし一緒にいていいの?」
「いいでしょー!いとこなんだし」
凛と京は、明日で付き合って丁度1年。 「そうじゃなくて、明日、記念日なんだし邪魔じゃないかなって」
「ぜーんぜん!!那都なら大歓迎だよー!!」
「じゃあお邪魔させてもらう」
「はーい!」
「そろそろ教室戻る」
「待って、私も戻るー!」
凛は1-Gで端っこに教室があるため、屋上からの階段を降りたら直ぐ別れる。
初夏の空気にのり、軽やかな足取りで教室へと向かった。
ガラ…
教室はまだざわついていて、あたしはこっそりと窓際の席に座った。少しの人はこちらをちらと見たけど、また喋り始めた。
目立つ容姿なんてほんと、やだ。
凛と仲良くなったきっかけは、これだった。
中学の入学式の後、先輩達に目を付けられたあたしと凛は、一緒に過ごすようになって。
友達になったと思った女子にはみんな無視されたし、男子なんて普通に接してくれるの京くらいだったし。
それで余計に凛と離れられなくなって、
凛も同じようで、
あたしと離れられなくなって、親の反対(花沢家は凛を絶対私立に行かせたかった)を押し切ってあたしと(京も)同じ高校に来た、という次第。
…目をあけたら、机がオレンジ色に染まっていた。窓を見ると空が、オレンジ色とソーダ色のグラデーションだった。
「やばっ」
急いでノートをしまい、ペンケースをとじ、カバンに無理やり突っ込んで、ジップを閉めた。
タタタ…
階段を滑るように降り、息を切らしながら家に着いた。
家に着くまで、何人もの人があたしを見た。会社帰りか学校帰りか。

