な、何が起こってるの!?
それにスマホ!!
手に持っていたスマホが滑り落ちた。
どうか壊れないで・・・テオへ渡りますように・・・!

「ぎゃっ!」

宙に浮いたと思った私の体は、あっという間に着地して、背後が何か固いものにぶつかった。

あ。この体・・・オレンジのような爽やかな香り。

「・・・カイル?」
「俺の他に誰がいる」

そのまま私は後ろから、ガッシリとカイルにホールドされ・・・なくて、また物みたいにカイルの肩へ担がれた。
そして肩にかけてた私のバッグは、護衛のウィンの元へ投げられた。

あぁこのシーン、過去の再現ですか!?

「ちょちょ、ちょっーーーと!」
「黙れテンバガール」

ムッとしているくせに、なんで私は嬉しいとか思って、その上涙目になってるんだろう。

「テオのことはおまえに任せる。殺すなり結婚するなり好きにしろ」
「あんたに言われなくても好きにさせてもらうわよっ!」

この声は・・・。

「ジェイド、さん?」
「行くぞ」
「ぐはっ、ちょっと・・」

「もうたくさんっ!」というジェイドさんの叫び声が、かすかに聞こえてくる。
てことは、さっき私をカイルの方へ投げたのは・・・ジェイドさん?

細身な体なのに、意外と力持ちなんだなー、ジェイドさんって。
と思いながら、私はカイルに担がれたまま、テオと引き離された。





私が「カイル、下ろして・・・」と言っても、カイルは丸無視してズンズン歩く。
後ろを向いてる形で「移動」している私は、いろんな意味でいたたまれなくて、懐中電灯で前を照らしてくれている護衛のウィンと目を合わせないようにしてるんだけど・・・。

「頭に血が上る!」
「ならば頭を上げておけと前にも言ったはずだ。この俺に同じことを二度以上言わせるな」
「ぐ・・・こんな恰好じゃあ、パンツ見えちゃうっ!」
「前から歩いてくるヤツは一人もおらん」

う・・確かに。
こんな夜遅い時間、森付近を歩き回る物好きは、私とテオくらいかなー。ははは・・。

今のカイルに何を言っても聞いてくれないことは明白だから、私はおとなしく担がれておくことにした。






森を出ると、国王様(リ・コスイレ)の豪華公用車に乗せられた。
カイルの肩から下ろされたことに、ひとまずホッとする。
でも護衛のウィンは、助手席に乗ってしまったので、広々とした後部座席には、カイルと私の二人だけになってしまった。

あぁなんかもう、ひじょーに・・・気まずいんですけど。

私は、小さな体を精一杯縮めて、なるべくドアにくっつくように座っていた。
そんな私をカイルはまだ無視している。
というか、私のことを車の一部みたいに思ってるみたいだ。

不意にカイルが手を伸ばしたので、私はビクッとした。
カイルの手は、真ん中にある扉みたいなのをピシャリと閉めた。
これで前にいる護衛の人たちは、私たちの姿が見えなくなったわけで・・・。

ど、どうしよ・・・。

そのままカイルは、横に合った冷蔵庫みたいなボックスから、ボトルを取り出した。
それをいとも簡単にひねり開けたように見えた私は、カイルの怪力(かどうかは実際分からないけど)にビビッてしまう。

そのボトルが私の目の前にスッと差し出された。

「飲むか」
「ひっ!?」

どう見ても、これはいわゆるお酒類のボトルだ。
それに、ウイスキーのような匂いがかすかにする。

「えっと、私、未成年だから、まだお酒飲んじゃいけなくて・・・」
「そうか」とカイルは言うと、あっさり引き下がってくれた。

それだけで命拾いしたような気持ちになってしまう。
いや、もしかしたら、ただ延長されただけかもしれない・・・。

ボトルに口をつけて、二口三口ラッパ飲みしているカイルの横顔を、私はチラッと見た。
カイルのセクシーな口元や、飲むたびに動くのど仏までもがカッコいいと思ってしまう・・っていけない!
こんな状況なのに、またカイルにうっとり見惚れてしまいそうになってしまった。

カイルはボトルを戻すと、今度は小さなお水のボトルを取り出した。

「これなら飲むか」
「あ・・うん。ありがとう」

喉は渇いていたけど、私も二口飲んでやめておいた。
ボトルの蓋を閉めると、カイルがそれを取り上げる。
そしてまた蓋を開けると、カイルもお水をゴクゴクと飲んだ。

あ。間接キス。
とか思ってる私って、実はのん気なのだろうか・・・。

カイルがお水のボトルを戻した。
その音以来、王宮に着くまで、車内はシーンとしていた。








案の定と言おうか。
車から降りた途端、またカイルに担がれた。

「ね、カイル!私自分で歩ける!」と言っても、カイルは無視してズンズン歩く。

「今度はパンツ見られるかもしれないし!」
「おまえのパンツを見たがる物好きなど、ここにはおらん」

それ、どういう意味ですかっ!?
と思っているうちに、どうやら部屋に着いたみたいだ。
カイルが止まって、ドアが開いた音がした。

「俺はしばらくここにいる。緊急事態以外で俺を呼び出すな」
「かしこまりました、リ・コスイレ」
「おやすみなさいませ、ナギサ様」
「ふぁい、ヒルダさ・・・」

「ん」と言い終わる前に、ドアが閉められた。





そのままカイルは歩いて、私をぞんざいに投げた。
幸い、投げた先がベッドだったからよかったものの・・というか、ベッドだから投げたんだよね、と思いたい。

「ぎゃっ!ちょっと!」
「なんだ」
「靴履いたままベッドに寝たくないんだけど!森歩いたから土ついてるし」

と国王(リ)に向かってブツブツ文句を言いながら起き上がってる私は、ある意味命知らずというか、度胸あるっていうか・・・。

でもこのときは、カイルの立場よりも、早くブーツを脱ぎたいという気持ちのほうが上だった。

私よりも早く、カイルがブーツに手を伸ばして、あっという間に脱がせてくれた。
カイルはそのブーツを、その辺へ適当に投げる。
その動作までもがサマになってる、じゃなくって!
土ついてるんだから、床が汚れる、でもなくって!!

ブーツが落ちたゴンという音が、かすかに響き渡る。
無意識に音がした方へ体を向けると、カイルが私の目の前に現れて、私をベッドに押し倒した。

「あ・・・っ!」
「こんな夜遅くにデートか。しかもコソコソ隠れてデューブ・フォラオイゼ(黒い森)まで行くとは。ずいぶんテオと仲良くなったな」
「あ、あの、それ、は・・・ちょ、ちょっとカイルッ!」

カイルは私のコートのボタンを、一つ一つ素早く外し終えた。

「俺に何か言うことはないのか。それとも・・・この俺に何も言わずにここから出る気だったのか」
「いや、だから・・・いやっ!!」

お気に入りの白いブラウスのボタンが、いくつかはじけ飛んだ。
垣間見える素肌がスースーする。
私は条件反射のように手で隠そうとしたけど、それより早くカイルが私の両手を持ち上げて阻止されてしまった。

そしてカイルのもう片方の手は、私の顎あたりを軽くつかんで、自分の方に向かせる。
カイル・・・怒ってる?
いつもどおり表情があまり表出てないけど、怒ってるって雰囲気満載だ。
そりゃまぁ・・・カイルに何も言わずに外出ちゃったし。
しかも夜の外出は禁止だと言われてたし。

でもなぜか私は、カイルのことが怖くないと思っていて。
ていうより、カイルは、とても傷ついた顔をしてるように見えた。

「・・・ごめんなさい。私・・・」
「そろそろテオが動く頃だと思っていた」
「は?テオ・・・?」
「テオはあの性格だ。異世界から来たおまえと、おまえの国に興味を持つと見越していた。それにテオには少々現実逃避の気がある。あれの仮説が成り立ったとき、おまえがいた世界へ行くために、いつかは行動を起こすはず。加えて昨日のおまえは挙動不審だったことくらい、ヒルダの報告がなくても容易に分かった。テオにそそのかされたか」
「な・・・」

カイルはそこまでお見通しだったのか・・・。
私のこと、全然見てなかったくせに。
と思っていた私は甘すぎた?

「あれでもテオはこの国の王子だ。あれと一緒に不審な動きをすれば、よそ者であるおまえがテオを誘拐する手引きをしたと思う奴もいるんだぞ」
「わ、わたし、ちが・・・ちょ、と、カイル、やめ・・・」

カイルはいたって冷静な口調で言いながら、あらわになってる私の脇腹から胸あたりまでを、そっとなで上げていた。
あぁ、なんか鳥肌立って、ゾワゾワして、カイルが近すぎて、ますます落ち着かない!

「案ずるな。今回はおまえを受け入れてない奴らに気づかれてはおらん。ナギサ」
「は、い・・」

いつの間にかブラはずり上げられて、大きな手が素肌の胸を覆っていた。
私の上にいるカイルは、真剣な顔で私を見おろしている。

どどっ、どうしよう!
心の準備もできてないうちに、こんな状況になってしまった!

「か、カイル・・・」
「ナギサ。ここにいろ」

ハッとした私に、カイルの顔が近づいてくる。
そしてそっとキスをした後、「Stay」とカイルがつぶやいた。