私が帰ろうと作法室を出た瞬間…、

『あっ、神田さん!』

と、心地の良い低音の声が聞こえた。

私が振り返って微笑むと、北川くんは少しだけ照れたように頭をかいた。

ねえ、なんでそんな風に照れるの?

北川くんには…、柊南天さんがいるじゃん。

『北川くん!』

私がそう名前を呼ぶと、北川くんはニコッと笑った。

そんな風に笑わないでよ。

『みんなで遊ぶのに参加してくれてありがとう。』

お礼なんて、言わないでよ。

『えっ?いや、いいよぉ。』

『一回遊んでみたかったんだ!』

北川くんは、楽しそうに告げる。

でも、今の私はすごく醜い。

嫌だ…、こんなの私じゃない!

『そっか、私も遊んでみたかったよ。』

でも…、今の私には嘘を言えるほどの余裕はない。

『そっか、じゃあまた明日。』

『またね。』

北川くんはそう言って去って行った。

北川くんの姿が見えなくなると、ネガティブな感情が現れる。

北川くんは柊南天さんと一緒に帰るのかな?

北川くんは柊南天さんのこと好きなのかな?

本当に、付き合ってるのかな?

噂が本当だったら、一目惚れした私はどうすればいいの?

私はふと周りを見渡した。

すると周りには誰も居なかった。

私と北川くんが話している間にみんなは帰ったらしい。

私は1人でとぼとぼと家路についた。