「篠宮、くん。」


頑張ったよ、私。

実に1年ぶりに、男子の名前呼んだ。


「違うだろ、悠香ちゃん?」


彼の声は嫌いかもしれない。

ゾクッとして落ち着かない。

声自体は素敵なのに。

「下の名前。」

容姿なんて興味ないけど、彼は別。

今更だけど、すごい美男だった。

だからどんな仕草でも色っぽくて。

どこか惹きつけられる。


「…雪斗、くん。」


つぶやくように呼ぶ。

彼は満足したのか、嬉しそうに私の頭を優しく撫でて立ち上がった。

「よくできました。この本、戻しといてやるよ。」

「え、」

「じゃあな、また明日。」

また明日も来るつもりらしい彼は、本棚の奥へと姿を消してしまった。