そんな彼が小さなキッチンによたよたと歩みを進めた。

ほんの少し嫌な予感がした。

こちらに戻ってきた時の彼の手には包丁があった。

「なぁ、金貸してくれよ…もう、限界なんだ」

かすれた声の彼は刃先を私に向けてきた。

「…もうないわよ」

ため息混じりの私の返答に彼は包丁を振り上げた。

身の危険を回避すべく私は走りだした。

「待てよ、ゴラァッ」

彼は包丁を振り回しながら私に迫って来た。

この安いアパートの中で逃げれる場所は鍵のかかるトイレくらいしかない。