あっという間に、
月日は過ぎていった。

なんてことない、代わり映えのない毎日だ。


朝はいつも同じ時間に起きて、ここに住む人全員で朝ごはんを食べて、
タカと学校に行って、友達と遊んで、アザミにケンカ売られて、適当に流して、
帰って、みんなで遊んで、飯食って、勉強して、

寝る。


毎日、毎日、

同じことの繰り返し。



なのに、



いつまでたっても、ひとつひとつが新鮮で、

今まで気にも止めなかった町行く人とか、店とか、空の色とか、

毎日、変わる世界の色に、

俺はいつもこそばゆい気分だった。



世界がこんなに美しいことを


俺は知らなかった。



会いたい人に、

いつでも会えるこの幸せが、



これからも、ずっと、永遠に、



続いていくような気がしていた。


幸せ過ぎて、忘れていた。


この幸せは、

期間限定であることに。







「みなさん、さよーなら!」


小さな頭をぺこりと下げて、パンパンのリュックを背負う女の子は満面の笑みを浮かべた。


「みーちゃん、いいねぇ、お父さんにお母さんできたんだね!」

「えへへ、そうなの、えへへ」


タカがその子の頭を優しく撫でてあげると、またさらにニコニコと笑った。


「キノ兄ちゃん!ばいばーい!」

「ばいばい、元気でね」


ひらひらと手を軽く振ると、何倍もの早さと大きさで返してくれた。

そうして、彼女の両脇から、お父さんとお母さんになるであろう人が小さな手を握り、深く頭を下げたあと、ゆっくりと家を出ていった。


幸せそうなその子の横顔を見たら、少し目がうるんだ。



「行ったねー」

「行ったな」

「やっぱり、寂しいね。あの子、まだちっちゃいからたぶん何にも分かってないだろうけど、」

「はは、」



身寄りのない、小さい子は、

よく、子供のいない夫婦にもらわれたりする。


もちろん、しっかりと手順は踏んでいる。


何度も面会をして、話し合って、
子供に不幸のないように、細心の注意を払って。


タカは、きっと今まで何人もの子供を見送ってきたんだろう。

彼女が見送られる側にならない理由、

聞かなくても、なんとなくわかる。



ここにいる子供たちは、タカよりも小さい子ばかりだ。

タカは面倒見がいいから、ずっと小さい子の世話をしてきたはずだ。

彼女がいなくなると、小さい子たちにも影響が出る。



だから、タカは自分の意思でここに居続けているんだ。