「わかってる。別に、俺もそういう気はない」


「ふん、じゃあ、あいつに…手出すなよ‼お前には渡さないからな!」


変なやつ。

タカのことが好きなのかこいつ。

まあ、分かるけど。

美人だし、世話焼きだし、非の打ち所のないやつだ。

そりゃ、好きになる。



俺だって



好きだ。




………うん、好きだ。





何か頭を雷に撃ち抜かれたような気がした。

適当に放っておいた感情が、いきなり、意思を持って動き出した。



じゃなきゃ、

こんなこと、


言うはずがない。







「それは、無理、だな」


「は?」


「手、出したいし。タカはお前に渡せないよ」


「は!?お、お前タカラのこと好きじゃないんだろ!?」


「………いや、好きだよ、たぶん」


「なんだよその曖昧な返事はっ、タカラは渡さないぞ!!」


「無理だって」


「なにおぉおおお!!」



そのとき、
ガチャリと開いた扉。

その先には、タカがいた。


目をぱちくりと開いたあと、ニコッと笑った。




「アザミ今日も家の人居ないの?」

「……別に、暇だから来ただけだし……も、もう帰るから」


そそくさと逃げていくそいつの背中を見届けたあと、バチッとタカと目があった。


「なに話してたの?」

「…別に…てか、誰?あれ」

「なーにー?知らないの?アザミはキノがここに来る前からこの家によく来るんだよ。

アザミの家の人が夜居ないこと多いから」

「中学生になってまで預ける必要ある?」

「たぶん、心配性なんだよ。アザミのお父さんがね。ほら、アザミ荒れてるから」

「確かに金髪だったな」

「まあ根はいい子だし、別に学校で問題起こしてるわけでないし、ただの反抗期だよ。あの髪は」



なんか、詳しいな。あいつのこと。

けど…俺がここに来る前から、タカとは結構関係があったのか。

じゃあ、俺より、タカについて詳しいってことかな。


…いや、やめよう。


誰かにこっそりタカのこと聞くなんて、なんか、タカに悪い。

そんなことしたくない。


だけど、


知りたい。


タカのこと知りたい。





「タカ」

「ん?」

「タカはなんでここに住んでるの」

「え、」



タカが目を見開いた。

なにか、俺が間違ったことを言ったような気分になって、慌てて訂正した。


「別に…言いたくないなら…いいけど…」


軽率だった。

いくらなんでも、こっちから聞き出すのは、まだ早かったかもしれない。

タカ自身、俺が思ってるよりもずっと辛い過去を持ってるかもしれないのに。


タカの無言が辛い。


けど、すぐにいつもの笑い声が聞こえてきた。


「はは、別にいいよ。私だってキノのこと知ってるくせに自分のこと教えないのは割りに合わないよね」


「いや、そんな、」


「ううん、いいの。キノには知ってほしいから。」



ニコッと笑うタカ。

俺のとなりに腰を下ろすと、宙を見つめながら口を開いた。