「アザミくんが、転校して来る前、ある出来事があって、キノが橋から川に飛び込んだの」
アザミくんの顔つきが急に変わった。
眉を寄せながら私を見下ろしている。
私は怯まないで続けた。
「あの髪どめは、なに?キノ、アザミくんのこと毛嫌ってるくせにあの髪どめだけはつけていていいって言った。
この髪どめは、いったい誰のなの」
私は髪どめを外して、アザミくんに差し出した。
アザミくんはその髪どめを見つめながら私を見る。
その顔には何か迷いが浮かんでいた。
更に声を強くして、足を強く踏みしめる。
「お願い、お願いします、キノは何か隠してる。キノは苦しんでる。
それだけはわかるの。
お願い、私に、キノのことを教えて」
頭を深く下げて髪どめを握りしめた。
頭上からは呆れからのため息が聞こえたけれど、
私は頭を下げ続けた。
しばらくして
アザミくんが声を落とした。
「俺が言いたくないのは、フユが傷つくのが目に見えるからだよ」
「…うん」
「俺さ、親が会社人間で、一人の時多かったから結構ぐれてて、高校とかもあんま行ってなかった。で、いっそ一人で暮らそうって思って、親元離れたくて学校変えることにしたんだ。
学校はキノを探して選んだ。絶対いきなり訪ねても会ってくれないだろうし。まさか彼女が居たなんて知らずに。
そこまではよかった。ただ腹立っただけだから
だけど、その彼女が、もっと嫌なやつならすんなりキノのこと話せたけど」
アザミくんは一呼吸置いて、目をふせた。
そして、静かに続けた。
「フユが、本当にキノを思ってることとか、フユが楽しそうなところ見ていたら
言えなかった。絶対に、キノを見る目が変わると思って、フユが、変わると思って」
黙りこむアザミくん。
やっぱり、ことは思ったよりも深いらしい。
なんとなく、感じていた。簡単な話で済まないことは。
それこそ、私の想いが揺らいでしまうような話って、予想はしていた。
だけど
もう私の答えは決まっている。
今までたくさん考えた、その結果はもう
誰にも変えられない。
何があってもキノのそばにいると決めたから。

