突然舞い降りた非日常は

私やきっとマヒロくんやエリちゃんにも

味わったことのない不思議な感覚を与えているのだと思う。



頭をこびりついて離れないあの光景も

さすがに麻痺してきたのか
もう呼吸が乱れたりはしなかった。


非日常が

また日常に戻ろうとしている。


私たちはまたいつも通りに戻ろうとしている。



それでもやっぱり


起きた出来事も

交わした会話も


消えることはない。



永遠に私の頭からは離れはしない。




家の扉を開ければ

いつもの玄関がひろがっているのに

どんよりしているように見えるのは気分のせいだろう。


すると廊下の奥からみゃあっ、と一度鳴いて
白い生き物が近づいてきた。


キノが夏休みの前に私の家に置いていった子猫の大輝ちゃんだ。


一緒に名前をつけて

いっぱい撫でて


キノは夏休みの間もちょくちょく会いに来た。


まだまだ小さな子猫だけど
いっちょ前に私が家に帰るとお出迎えまでしてくれるお利口さんだ。


真っ白なふわふわの毛並みに触れて

その体を抱き起こして私は玄関に座った。


おでこを爪で撫でると目を細くして気持ち良さそうにする。


いったいお前の親はどこで何をやっているんだろうね。


キノの、親は


生きているのに


いったいどこで何をやっているの。



真っ白な小さな体を少し強めに胸に抱き締めると苦しそうに鳴いた。

私は上半身を力が抜けたかのように前に傾けると膝におでこをつけた。


大輝ちゃんは

するりと私から離れると私の前でちょこんと座り込んだ。


私はしばらくその体制で涙を噛み締めた。


私の無力さが


悲しいくらいに
胸に広がってぎゅうぎゅうと圧迫して



"キノを知りたい"と


叫んでいた。