『あたしと一緒に帰ってもらえませんか!』
『・・・いいよ』
『で、でも帰る方向逆じゃ・・・』
『そんくらい、お前といられるならどうってことねーよ』
そう言ってユウトはあたしの手を引いた。
大きくて、骨ばった手から伝わる温かさにドキドキしながら二人でいられる幸せをかみしめたのだった。
つづく
「ふぅ・・・・・」
一息ついてスマホを机に置き教室の天井を見上げた。
そのまま軽く伸びをしてスマホの画面に視線を落とす。時間を確認するともう下校時刻が迫っていたのでそそくさと帰り支度を始めた。
「今日はメロンパン・・・かな」
誰にいうでもなく独り言をつぶやく。
今日は駅前のパン屋のメロンパンを食べることにした。あそこはすごく美味しいから毎日でも行きたいけどお金の問題は学生につきものなのだ。
人気店とあってなかなかのお値段。
甘いもの以外にはあまりお金を使うところがないので金欠に悩ませられることはあまりないけど、無駄な出費は控えたい。
そんなことを頭の片隅で考えながら鞄を肩にかけて教室を出た。
「さよなら」
誰に言うでもなく、あえて言うなら無人の教室に別れを告げて引き戸を閉じた。
このせつない感じ小説に使えそう!
忘れないうちにメモを取ろうとメモ帳を探すが見つからなかった。
あれがないと小説は書けないといってもいいくらいの大切なものだ。
きっと教室に置いてきたのだろう。メロンパンのことを考えながら作業するからこうなる。
私は少し焦って引き戸を開けた。
「!?」
おかしい。
さっきまで誰もいなかった教室に、誰かいる。
私は「ひぃっ」と小さく悲鳴を上げたがよくよく見ればただ窓際でスマホをいじっている男子生徒だった。
この教室にいるということはクラスメイトなのだろう。
もしやあの席私の隣!?
ということはもしかして・・・
「前田・・君?」
恐る恐る、しかもかなりの距離をとってだったが、ちゃんとその声は聞こえたらしく前田君はこちらを向いた。
「よぉ並川、忘れ物か?」
「うん・・・前田君さっきまでいなかったよね?」
「いたよ、ただ訳あって先生から逃げててついさっきまで掃除用具入れの中にいた」
「またなにかサボったの?」
「だってめんどくせーんだもん、あのハゲ」
この人は前田洸太君。私の隣の席のクラスメイト。運動神経、学力ともにトップクラスだけど努力とやる気が足りない。
授業中は寝ているかスマホをいじっているかのどちらか。
態度が悪いので今回のように先生(ハゲ)に追われることもしばしば・・・
そして私は並川リノ。こう見えてケータイ小説でランキングに入るほどの人気を誇る作家だ。
作家としての私はリナ。名字と名前の頭文字をとって前後入れ替えて作っただけの簡単な名前だ。
クラスメイトの女子が読んでいたりもするけど、私がリナというのは内緒だ。