まずは、キスのことを謝らなければいけないと思った。



「ごっ……ごめん……っ!」



俺は勢いよく室田麗子に向けて頭を下げる。


室田麗子の顔は見えないけれど、多分驚いてる。



「真面目に演劇の練習してるときにキスなんかして、ごめん……っ」


「え?あ、別に大丈夫よ?顔をあげて?」


「……でもお前、………初めてだったんだろ?」


「えっ、そっそれは……まぁ、そうだけど」


「女子にとって、大切な大切なファーストキスを奪ったんだよな、俺。
どう謝ればいいのかも分からないけど……」



あまりの申し訳なさに、頭が上がらないとはまさにこの事だと思った。



室田麗子が俺の頭を優しく撫でてくれる。


そして、力強く小さな手で顎をつかまれ無理矢理俺は正面を向かされる。



「大丈夫だって言ってるでしょ?
私にとって、最初のキスとかそういうのは特別じゃないの。
愛が在(あ)るか亡(な)いかで特別かどうかは決まるわ。
そう、特別かどうかは私が決めるの。
あなたのものさしで勝手に測らないで頂戴」



真剣なその瞳にはちっぽけな俺が映る。


ああ、確かにそうかもしれない。