僕と夢野は屋上で、いつものように空を見ていた。
こうして2人で屋上にいると、
今までと何も変わっていないような感じがしてくる。
しかし、今の夢野はもう眼帯をしていないし、
もうみんなが僕達を避けることもなくなった。
もうあの時とは違う。

「夢野・・・僕は・・・」

僕がそう言いかけた時に、

「本当に・・・無事で良かった」

と夢野が言った。

「お前が倒れた時、
すごく・・・怖かったんだ。
もしお前が死んだら・・・」

夢野はそれだけ言うと黙ってしまった。

「僕が助かったのは夢野のおかげだよ。
夢野がいなかったら僕は本当に・・・。
まさか夢野が僕と同じ血液型だとは思わなかった。
父さんからその話を聞いた時、驚いたよ」

そして僕は倒れてから、長い夢を見ていたことや、
その夢に小学生の夢野が出てきたことも話した。

「誰かが僕を呼ぶ声が聞こえて、それでようやく目が覚めた。
あの声は、夢野だったんだね」

なかなか目を覚まさない僕に、必死で声をかける夢野の姿が浮かんでくる。

「僕がこうして生きてることも、あの夢から覚めたことも、みんな夢野のおかげなんだよ」

僕はそう言うと、夢野は僕の肩に手を置く。

「俺を変えてくれたのは空野だ。
俺はそんなお前を助けるためなら何だってする」

雲の隙間から顔を出した太陽の光が僕達を照らした。

伊達に刺された時は、たしかに僕も怖かった。
でもあの時の僕は死よりも、夢野のことを考えた。
僕は約束を破り、また夢野を1人にさせてしまうかもしれないと。

「僕達の出会いはもう、僕があの少年の夢を見始めた時から始まっていて、
なんて言ったら良いのか分からないんだけど・・・
まるで・・・僕達が何かに引き寄せられたような、
そんな気がしてならないよ。
僕達がこの学校で出会えることも、
もうずっと前から決まっていたような
・・・そんな気がするよ」

僕の言葉を聞くと夢野は空を見上げた。

「そうかもな・・・。
空野が俺の過去の夢を見ていたことを知った時、
そんなふうに思ったよ。
お前が転校してきてきてから色んなことが少しずつ
変わっていくのが分かったし、
そのたびに俺は、自分がずっと心のどこかで
何かが変わることを望んでいたことも分かった。
お前は俺を変えたし、みんなを変えた。俺が望んでいたことを、全部叶えてくれた」

すると夢野は、持っていた小説を僕に渡した。

いつも夢野が屋上で読んでいたReviveという題名の小説だ。

「お前はその小説の主人公と同じだ」

僕は小説を見つめた。

「僕は物語の主人公になるようなタイプじゃないよ」

僕は笑いながらそう言うと仰向けになって寝転んだ。

「この小説、僕も読んでみて良いかな?」

僕がそう言うと、夢野はしばらく何も言わなかった。

しばらくお互い沈黙していた。

「・・・その本は、お前に持っててほしいんだ」

そう言った夢野の横顔は、どこか遠くにいる誰かを優しく見つめているような感じだった。