とても長い夢だと思った。

夢野は、僕に会いに来るたび、

「お兄さんの家はどこ?」とか「明日もここにいるの?」とか聞いてきたので、

僕は適当に「あっちの方から来た」とか「多分明日もいるかもね」と答えていた。

そして、夢野はいつの間にか僕のことを「空野お兄さん」と呼んでいることに気付いた。

これは現実の世界ではないが、こんなに嬉しそうに僕と話す少年を見ていると

なんだか本当に兄になったような気分だ。

この少年を孤独から救えるなら何だってするのにと、僕は思った。



これからもずっと、こんなことが繰り返されるのかと思っていたが、そうではなかったようだ。

僕がいつものように目覚め、午後の4時を過ぎていることを確認した時、

周りを見渡すと誰もいなかった。いつもなら学校帰りの学生達が

このベンチの前を通っているはずなのに。

そして、いつまでたっても夢野がこの場所にやってくる気配がないので

僕はいよいよ嫌な感じがしてきた。

空は灰色の雲が広がり、今にも雨が降り出しそうだった。

僕はしばらくベンチから空を見上げていたら、やはり雨が降り出した。
雨は次第に激しさを増し、雷まで鳴り出した。

この雷の音をどこかで聞いたことがあった。

僕は勢いよくベンチから立ち上がった。


「夢野!!!」


気付いたら夢野の名前を叫びながら雨の中を走っていた。

僕はもしかすると今日、

「夢野の母親が死んでしまう日ではないだろうか」と思ったのだ。

その日の天気は、今のように激しい雨と雷の音で鳴り響いていた。

母親が死ぬ前の夢野は、雷の音が聞こえてくる部屋の中でずっと踞っていた。

僕はそんな夢を何度も見てきた。

夢の中で夢野の、辛い過去をずっと見てきたのだ。

それが今だとしたら、夢野は今頃自分の部屋で踞っているのだろう。

父親に怯えながら・・・。

そして次に夢野がとる行動は分かっている。

母親を助けようと部屋から飛び出していく夢野の姿が頭に浮かんできた。