夢野は辛そうな表情を見せた。
「俺の・・・父親は・・・」
そこまで言うと夢野は歯を食いしばる。
「思い出したくない・・・」
バンッとテーブルを叩き、夢野は部屋の窓の方を睨み付けた。
怒りに満ちた瞳・・・僕は、この目をどこかで見たような気がする。
「話さなくても良いよ。
誰にでも、思い出したくない過去はある。
僕にも・・・あるから。」
僕はふと前の学校のことを思い出す。
騒がしい教室。グループ同士で固まって喋り、
楽しそうに笑っている。その笑い声が
僕の頭の中で何度も響き渡った。
「僕は友達なんて1人もいなかった」
気付いたら僕は声に出してそんなことを言っていた。
ハッとして僕は夢野を見た。
夢野も僕を見ていた。
「俺は夢野と仲良くなりたかった。
僕が初めて名前を聞いたのが夢野で、
あの時から僕は眼帯なんか気にしてなかったんだ。
ずっと、その左目を見てた・・・。
僕が見たことのない【人の目】だ。
人の気持ちや痛みを理解できる人の目。
僕が今まで見てきた目は、
人を見下した目・・・
僕を見る目はいつも冷たくて、
残酷な目ばっかりだった。
僕はいつもイジメられてた。」
夢野と初めて出会った時のことが頭に浮かぶ。
青い空の下で、太陽の光に照らされた夢野が僕を見ている。
「田口や磯谷、みんなが話しかけてくれた時、嬉しかった。
ずっと苛められていた僕にとって信じられないことだったんだ。
今考えるとクラスのみんなも夢野も、何も知らない僕のために
考えて行動してくれていた。それはもう理解できる。」
僕は夢野をじっと見る。
「だけど僕は、夢野を人殺しだとは思わない」
僕は夢野を・・・というよりも、夢野の眼帯を、
じっと見続けた。
夢野はつまり、言い方を変えると
右目だけで人を殺せるということになる。
そんなことは絶対に有り得ない。
「夢野の前で人が死ぬのは、目のせいじゃなくて、
偶然に決まってるんだ。
夢野が勝手にそう思い込んでるだけで
本当は違うはずだ!」
すると夢野は頷いた。
「ああ。そうだな。俺の思い込みかもな。
そして、あの学校の奴らは洗脳されたように噂を信じている。
俺があいつらをそうさせた・・・。
それが真実かもしれない。
だけどな、もしこれが【偶然】だったとしても、
その偶然によってまた人が死ぬのを見たくない。
俺は同じ事を繰り返したくないんだ。
だからこそ、この眼帯は絶対に外さない。
空野、これで良いんだよ。
俺がこの眼帯を外さなければ人は死なない。
今のところはだけどな・・・」
僕は溜め息をついた。
「・・・。」
「俺はお前にだけ話す・・・。
俺が眼帯をし始めたのは、母親が死んでからだ。
俺の母親は父親に殺された。
俺の目の前で。
俺はその前からずっと父親が嫌いだった。
母親が死んだ時、突然右目が痛みだしたんだ。
消えない痛みだった。
父親は母親が死んだあと、
何日かして体調を崩して倒れ、すぐに死んだ。
それから、俺は右目の痛みが治まらず病院に行った。
しかし、原因は不明で薬も効かなかったんだ。
3人の医者に見てもらったが、
やっぱり原因は分からなかった。
唯一、痛みが和らぐのは目を閉じることだった。
目を開けると激痛に襲われることが分かってから
俺は右目に眼帯をすることにした。
なぜ右目だけが痛むのか、
その時はいくら考えても分からなかったが、
父親が死に、そして3人の医者が死んだ時
俺は気付いた。
父親も医者も、みんな俺の目を見ている。
そして触れている。
だから死んだのかもしれない・・・。
まだ小学生だった俺はそんなことを考えたんだ」
僕は夢野の話を聞きながら何か思い出そうとしていた。
それが何なのか分からなかったが、
僕は今、何かを忘れている気がした。

