「へえ、それで君は一目惚れをしてしまった訳か」
ガラス張りのビルに背中を預けて彼は喉を鳴らして笑う。

よれよれのVネックに鈍色のロングカーディガンを羽織った彼の笑い顔は真夜中の都会によく映える。

「でも彼女はこう言ったんですよ、“お久し振りです”って」
俺は彼女と会った事が無い、と東は眉を下げて呟く。





東と彼は真夜中の歓楽街で出会った。




彼女にもう一度会いたくて、東はビル街の地平線の見えるあの丘に気付けば足を向けていた。
その時だった。
「恋に堕ちた顔をしているね、君は」

真夜中のビルティングによく似合うあの笑顔が、東の前に姿を見せた。