小林先生side

「………しんぞー…。」

「それも違うし。先生見てるとここ痛くなる。」

「そ。先生のせいなんです。」

バタバタバタ……

こらー…。廊下走んじゃねーよ。

……ゆーなちゃん。

唯一俺が1年生の中で授業持ってるクラスの生徒。

長谷優奈。(はせゆうな)

初めて〝先生〟という立場でこの学校にやってきた。

正直不安の方がデカかった。

上手く授業出来るのかとか、生徒としっかりやってけるのか、他の先生と仲良く出来るのかとか……。


始めての授業は優奈のクラスだった。


最初のウケは良かった。


俺のこと、俺の授業を面白いと言ってくれる生徒が多かった。


だから少しはホッとした。


でも、2回目、3回目は、そんな俺のことも、授業も、どーでもいいって思う奴が増えて行って、

俺の話なんて聞く耳持たねー…。

寝てる奴だって出てきて、授業中にケータイいじるなんて当たり前。

授業やる気なんて失せた。

なんでこんな奴らに教えなきゃいけねーんだよって、何度も思った。


…辞めたいとさえ、思った。


「はい、次の行、えーと…長谷さん」


保健の教科書を片手に、名簿だけを見てテキトーに当てた。

どうせ、聞いてねーんだろうけど。

そう思っていた。


「はい。えっと……私たちは、食事をとる事で…」


女の子の声がした。


とっさに顔をあげた。


目に飛び込んできた、150cmくらいの、小柄の女の子。


保健の教科書に目を落とし、もくもくと教科書を読んでいく姿。


俺があの時、どんだけ嬉しかったか。

どんだけ優奈に救われたか、わからねーよ?


それが、長谷優奈との出会いだった。