最後の夏 ~十年の想い~



……アイラ、思い出して。俺だよ。


口元まででかかった言葉を、寸前で飲み込む。


(……何、考えてんだ、俺……)


自分の勝手さに、思わず舌打ちしそうになる。


なにも、今更言うことないじゃんか。


アイラが忘れてるんなら、それでいいんだ。


無理に思い出させる必要は、ない。


「……あの、飯野くん…?」


まだ、少しだけ怯えが残った、強張った表情で
、アイラは俺の名前を呼んだ。


「……あ、案内だっけ?ごめん、せっかくだけど、パス。また、気が向いたら頼むから。」


優しい口調で言うつもりが、少しだけ突き放し
たような言い方になってしまう。


案の定、アイラの表情がますます強張った。