「・・・・っ、専務っ!お茶がこぼれてますよっ!!」

ハッと気が付いたときには御堂が既に慌てて机の上をハンカチで拭いていた。

「あっ、悪いっ!」

ガタッと立ち上がると俺もハンカチを取り出して今にも滴り落ちそうになっているお茶を拭いていく。

「パソコンは・・・・良かった。濡れてないみたいですね」

ノートパソコンを持ち上げてその周辺を丹念にチェックすると、御堂はホッと安心したように息を吐いた。幸い、零した周辺には書類も置いておらず、机が濡れただけですんだ。

「・・・・悪い、ボーッとしてた」

「専務がそんなことになるなんて信じられないですね。・・・今日はもうお帰りになったらいかがですか?幸い大きな仕事も今はないですよね?」

綺麗に拭き上げると御堂は顔を上げて俺に言った。

「あぁ。・・・・・・いや、やめとくよ」

「そんなこと言って、今日一日心ここにあらずじゃないですか。専務がお帰りになっても今日は大きな支障はないんですから、是非そうされてください」

確かに今日の俺は自分でも考えられないほどミスばかりしている。
しかも子どもがするようなそればかりを。
仕事でのミスがないのが不幸中の幸いだ。

「・・・・・そうしたいのは山々なんだが、それを許してくれない奴がいてな」

「えっ?!」

驚きの声を上げる御堂に背を向けると、俺は窓の外の澄み切った青空に目をやった。