「わぁ~、綺麗な旅館ですね。素敵です」

途中、何度も休憩を挟みながら軽い観光を済ませ、宿泊する旅館へと辿り着いた。河口湖からほど近いところにある趣のある高級旅館だ。
美羽は贅沢しなくていいと言ったが、普段なんの贅沢もしないんだ。
それに新婚旅行も兼ねているのだから、こんな時くらい思い切り楽しまなければ損というもの。


「ようこそいらしゃいました。藤枝様は離れのお部屋でらっしゃいますね。ご案内いたします」

枯山水の中庭が見える渡り廊下を進んだ先に、一棟の小さな建物が見えてきた。

「こちらでございます。どうぞ中へお入りください」

「失礼します・・・・・わぁっ、凄い・・・・!」

おずおずと恐縮しながら部屋に入った美羽だったが、目の前に広がる風景に一瞬で目を奪われ歓喜の声をあげる。

「こちらは湖と富士山が正面に見える自慢のお部屋なんですよ。是非お部屋に備え付けの露天風呂に浸かりながら景色を満喫されてくださいね」

「はい・・・・・!ありがとうございます」

美羽が深々と頭を下げると、女将さんも恐縮しながらも嬉しそうに笑っていた。

初めての旅行がいきなり高級旅館の離れともなれば、緊張するのも当然かもしれない。
だが俺が過去に相手にしてきたような女だったら、それなりに金を持ってる俺なら当然くらいにしか思わなかっただろう。美羽ならたとえどんなに安いとこに泊まろうとも、喜んで感謝してくれるに違いない。

女将さんが出て行ってからも美羽はずっと窓に貼り付け状態だった。
子どものように目をキラキラ輝かせて、待望の富士山を前に大興奮の様子だ。

「気に入ったか?」

「はいっ!ありがとうございます!」

こんなに大きな声はめったに聞くことはないから、俺は美羽のはしゃぎっぷりに連れてきて本当に良かったと心の底から思った。