片付けは俺がすると言ってもそれだけは絶対に駄目だと譲らず、結局二人並んで片付けをした。その間もずっと笑い声が絶えることはなかった。


緊張が解れたことと一日の疲れもあったのだろう、ベッドに入ると美羽はすぐに夢の世界へとおちていった。子どものような寝顔で幸せそうに微睡んでいる。

「ありがとうな・・・」

彼女の髪をサラリと撫でながらその寝顔を見ていた。しばらくすると俺は寝室を出てリビングへと向かった。ソファに座りあらためて美羽から貰ったプレゼントを開けてみる。黒を基調としたシンプルながらも上品な万年筆を手に取ってみると自分の手に驚くほどすんなり馴染んだ。
今日を迎えるまで、彼女は毎日色んな事を考えては頭がパンクしそうになっていたに違いない。御堂や成田の助言を受けつつ時にからかわれながら、俺に喜んで貰うにはどうしたらいいのか必死で悩んでいたのだろう。

母が死んでから自分の誕生日なんて考えることもなかった。祝いたいと名乗り出る女はたくさんいた。だが誰一人としてその申し入れを聞き入れることはなかった。特別だと思われては困るからだ。そんなことで誰かと一緒に過ごすことは俺にとって苦痛でしかなかった。
だから今日という日まで自分の誕生日なんてすっかり忘れていたんだ。

それなのに今日はどうだ。こんな幸せがあるのだろうかというくらい気持ちが満たされている。こんな高価な物を貰わなくたって、彼女と一緒だというだけで俺は幸せで満たされる。
こうして彼女が俺のことを考えて必死で何かをしてくれたことが何よりのプレゼントだ。


彼女のことだ。俺のことで散々頭を悩ませておきながら、自分の誕生日の事なんて全く覚えていないに違いない。去年はまだ互いの気持ちを自覚していない間に過ぎてしまっていた。だから今年が互いを祝う初めての誕生日になる。


「さて、何をして驚かせようかな・・・」


俺は手帳に記された彼女の誕生日を指でなぞりながらワクワクが止まらなかった。




【怪しい小鳥の秘め事・fin】