彼女を選んだのは偶然だったのか必然だったのか。
今となってはそんなことはもうどちらでもいい。

あれは運命だったのだと思えるから。




初めて美羽と顔をあわせたとき、彼女は牙を剥き出しにしていた。

当然のことだろう。
時期外れの理不尽な異動を命ぜられたのだから。


昔から自分に言い寄ってくる女性は少なくなかった。

まだ実家にいた頃は医者の息子として、
家を出て自力で這い上がってからはこの社会的地位を、
そして生まれ持ったこの容姿目的で近づいてくる女がほとんどだった。

自惚れでも何でもない。

自分を初めて見た人間は大抵が見とれている。
それに気付いたのはいつ頃からだろう。
当たり前になりすぎていて、その度にまたかとうんざりしていた。


初めて女と付き合ったのはいつだっただろう。
そんなことすらまともに思い出せない。
そもそも付き合っていたとも言えないような関係だった。

高校を出てからはとにかく必死だった。
己の身一つで這い上がっていかなければならない中で、
もがきながらも必死で階段を駆け上がってきた。

女に興味を持つ暇なんてこれっぽっちもなかった。
だが望まなくとも勝手に向こうからやって来た。

俺の上辺だけに擦り寄ってくる女達。
だから俺も上辺だけの付き合いに乗った。
ただ肉体的な欲求を満たすだけの存在。


俺にとってはそれで充分だった。
その関係を続けていくことに何の疑問も抱いていなかった。

彼女に出会うまでは。