彼女との生活は思っていた以上に居心地が良かった。
特別何かをしなくても、話さなくても、ただ同じ空間にいるだけで心が満たされる。
一言で言えばそんな毎日だった。


だが彼女の壁はそう簡単には取り除くことはできない。
予想はしていたが、彼女が自分の部屋で寝ると言い出したときは内心ショックだった。
毎日あれだけ安心して眠ってくれていても、やはり自分と距離を取りたがっている。
決して焦っているつもりはなかったが、また眠れずに苦しむんじゃないかと心配でならなかった。

その予感は的中することになる。
日々寝不足でやつれていく彼女の姿が痛々しかった。
彼女は気丈に振る舞おうと必死だったが、ほとんど眠れていないことは明白だった。
自分自身も彼女が心配でほとんど眠れぬ夜を過ごしていた。

いっそのことまた自分の部屋に来るように説得しようかとも思った。
しかしそれでは意味がない。
彼女が自分の意思で俺を必要としてくれること、それが大切なことだった。
強引に扉をこじ開けても、彼女はさらに硬い殻に閉じこもってしまうだけだろう。


俺はひたすら待つことを選んだ。


そんな中予定外の出来事が起こる。

あの男が動き出したのだ。
直前で予定変更になることなど、普通はありえない。
しかも理由も不明瞭なままなど尚更だ。

それは美羽を狙って動き出していることは確実だった。


彼女を傷つけることだけは許さない。


俺は不安に怯える彼女にある一つの話をすることを決めていた。