「いらっしゃいませー」
学校が夏休みに入り、バイト漬けになっていた。
ファーストフードのチェーン店の昼は忙しい。接客が作業的にならないように注意するものの、多忙にやられてしまう。
「四ッ谷さん」
頭につけていた無線から私の名前を呼ぶ声が聞こえた。多分社員だろう。
社員がいる方へ軽く走って向かう。
「はい」
「14時アップよね、お疲れ様」
「はい。お疲れ様です」
トレーの上のゴミを分別するお客様へ軽く挨拶をしながら事務所へ向かった。
「お疲れ様でーす」
「おつおつ!待ってたよ唯地(ゆいじ)」
「ごめんごめん、忙しくって」
「はやく着替えて!ごはん食べにいこ!スイパラスイパラ!」
「分かった分かった」
着替えを持って更衣室に入り、ドアを閉めようとした時に、事務所のちょうど入り口から死角になっていた奥から声がした。
聞き覚えのある店長の声と、知らない男の人の声。
「なんかやってるの?」
ケータイをいじって私を待つ詠(よみ)に聞いた。
「新人さんだよ、オリエンテーションなう。なんだっけ、名前……そうそう、阿南蓮(あなみれん)くん」
「ふーん…」
そう言って、詠はまたケータイをいじり始めたので、私も更衣室の鍵を閉めた。