伯父さんは麦茶の入ったグラスを机に置くと、「座れ」と、またぶっきらぼうに言った。
「はっ、はい...」
僕と伯父さんは、机に向かい合うように座った。伯父さんが麦茶をすする。
「...いただだきます」
そう言って僕も麦茶を飲む。よく冷えていた。
また暫く無言の時間が過ぎた。
ずっと伯父さんが僕の顔を見ているので、気になって仕方がなかった。
「よく似てるな。」
突然、伯父さんが言った。
「...父似だと、よく言われます...。」
「そうか。」
それが、伯父さんとの初めての会話だった。
無口な人で、ほとんど喋らなかったが、それから1年半。僕にカメラの事や、撮影に行ったいろんな事を教えてくれた。次第に、僕も写真や世界、カメラに興味を惹かれるようになった。
半年前に、伯父さんはまた外国へ出かけていった。
そしてそのまま、帰らぬ人となった。
心筋梗塞での、突然死だった。
まだ39歳だった。
2ヶ月前に葬式やなんやらを済ませ、ようやく落ち着いてきた今、僕の中ではずっと葬式の時のまま、もやもやした気持ちが収まらないでいた。
だから、無意識のうちにここに来てしたったのかもしれない。
伯父さんの家に。
ポケットから合鍵を出し、鍵を開けて中へ入った。
梅雨の始まりの雨の匂いが、家中に広がっている。誰もいない。僕は暫く、玄関にへたりこんで、動けなかった。
雨に濡れたままで流石に寒くなってきたので、中に上がり、タオルで体を拭いた。
机の前に座り、ぼぉっとしていたときだった。
ピンポーン
突然チャイムがなった。
誰だろう。伯父さんの知り合いだろうか。いると思えない。
恐る恐るドアを開けてみる。そこには手に翠色の傘を持った、中学生ぐらいの少女がたっていた。
「あの.....その......のざきしゃんは、こちらのおうちに、いらっしゃるんでしょうか...。」
たどたどしい敬語(?)で少女が尋ねた。てか噛んだ。
「僕、野崎って言うんですけど....多分僕の伯父の事だと思います。どうしたんですか?」
少女は緊張のあまりか、手に持っていたメモをくしゃっと握りつぶし、おろおろしはじめた。
「あぁのっ....ここに来るように言われてっ....!わっ、私は、ミヨですっ...お、お父さんが、そののざきさんというかたでっ.....!」
どう話したらいいか、あたふたしながら話している。伯父さんに中学生ぐらいの子供がいるなんて話、聞いたことも無かった。迂闊に信じられない。詐欺かもしれない。
「君が僕の伯父さんの娘さんだっていう証拠はどこに....」
そこまで言いかけたとき、少女がくしゃくしゃになった紙を突き出してきた。
それは住民票だった。『野崎 猛』紛れもなく、伯父さんの名前が書いてある。母親の方は、全く知らない名前だ。
とりあえず今は、完全に信用することはできない。偽造かもしれない。
「あの、家はどこ?」
少女がびくっと反応する。
「静岡県....です。」
「今日は1度帰ってもらっても、大丈夫ですか?こちらからまた連絡するんで、電話番号をー」
「ぅわたしっ、もう帰れないんですっ!」
「え?」

