「クソッ.....」
僕はいつの間にか玄関をとびだし、宛もなく走り出していた。背後から母親の声が聞こえたが、何を言っているのか聞き取れなかった。聞きたくなかった。
灰色の地面を睨みながらがむしゃらに走った。
それは、5月の終わりの事だった。
ぽつぽつと、曇った空から雨粒が降りてきていた。息が切れて苦しかったけど、感情が勝手に体を前に前に押し進める。
そうして走っているうちに、僕は無意識のうちにあの家へ着いていた。
2週間前に亡くなった、伯父さんの家だ。
森の中にひっそり隠れるように立つ、小さいけれど、綺麗な家。僕にとって、とても思い入れの強い場所だった。
伯父さんは、5年ほど前からこの家に一人で住んでいた。
親戚の間では、「放浪家」「ろくでなし」とか、散々言われていたけれど、彼には立派な職業があったし、稼いでいないわけでも(収入は少なかったけれど)なかった。
ただ、これまで何年も帰ってこなかったり、連絡がつかなかったり。性格が“人見知り“というのもあって、親戚から敬遠されていた。
でも、僕にとって伯父さんは、ただの放浪家やろくでなしじゃなかった。
とても魅力的な目を持った、憧れの人だった。
伯父さんは、カメラマンだった。写真を撮って売ったり、お金をもらって写真を撮ったりする仕事だ。
そんな伯父さんに出会ったのは、2年前の事だった。
伯父さんが3年ぶりに実家に帰ったとき、弟である僕の父さんにお土産を渡しに、家へ来たとき。玄関で二人が話しているところに、僕が学校から帰ってきた。初めて伯父さんの家に行ったのも、この時だった。
父さんに紹介されて、「ああ、親戚のおばさんたちに言われている“ろくでなし“の人か、」と思った。
どこか抜けていそうなたれ目。くしゃくしゃの髪。ボロボロのジーパン。本当に父さんのお兄さんかと疑うほど、不抜けたような人だった。
そんな伯父さんの家に、なんで僕が行くことになったかというと、父さんが僕に伯父さんの荷物を持っていくように言いつけたからだ。正直、学校帰りで疲れていたし、伯父さんと歩くのはあまり気乗りしなかったけど、しぶしぶついていくことになった。
そう言って家を出たは良いけど、伯父さんの家ねの道のりの間、どちらかが口を開くということは無かった。荷物のダンボールを抱えたまま、僕は気まずい雰囲気に流されるように伯父さんの後をついていった。
30分ほど歩いただろうか。
近くの森の中にひっそり隠れるように家がたっていた。伯父さんの家だ。
「入れ。」
伯父さんはぶっきらぼうにそう言って、スタスタと入っていった。
僕も慌てて後に続く。
家の中は思っていたよりも片付いていた。ダンボールを抱えたま突ったっていると、伯父さんが僕の腕から箱をもぎ取り、奥の部屋に消えていった。
どうしたらいいか分からず、その場に立っていると、暫くして伯父さんが戻ってきた。
手に2つのグラスを持って。

