病院は、直ぐに見つかった。事件現場から近くの病院でかつ外科のある病院は医大病院しかなかった。直哉が、親戚のふりをして電話してみると以外とすんなり教えてくれた。

一ノ瀬と直哉は、病院へ向かった。蘇芳茜は、一般病棟に移されていた。

「誰?」

直哉たちは、驚いた。鳩羽から聞いていたイメージとは全く異なった人物がそこにはいた。目付きが悪く、横柄で気だるそうに話す。直哉の苦手な部類だった。だが写真に写ってた人物と同様彼女の右耳の耳たぶにはホクロがあった。

「私達は、鳩羽直久さんから依頼を受けてあなたを探していました。一ノ瀬とこちらが水柿と申します。」

「探偵?何しにきたの?」

「鳩羽さん、心配しています。連絡してあげてください。」

直哉が、言うと蘇芳は鼻で笑った。

「別にあなた達が介入してくる領域じゃないでしょ。鳩羽に伝えておいてよ。元気ですって。」

「あなたの居場所を鳩羽さんに伝えてもよろしいですか?こちら側からしますと相手の方の了承をとらないといけません。」

一ノ瀬が、言うと蘇芳は大きく首を横にふった。

「嫌よ。絶対許さないから。」

「何故ですか?何か不都合なことでも?」

直哉が、皮肉っぽく言うと

「あの人、ストーカーっぽいのよ。どうせ付き合った人数が少ないから自分に自信がないんでしょ。私を束縛するの!完全DVよ。」

「じゃあ、鳩羽さんから受け取った30万は何なんですか?」

直哉が食い下がると

「何なの?もう、出てってよ!」

と蘇芳は興奮状態だった。

一ノ瀬が、間に入り話を違う方に反らした。

「話題を変えましょう。蘇芳さんを襲った犯人は誰だったんですか?」

「えっ?捕まったんじゃないの?」

「んん…。まだ犯人と断定するには証拠が不十分なので。」

「暗かったし後ろからだったから顔は分からなかった。でも男だってことは間違いないわ。刺されたとき相手の手首握ったの。太くてゴツゴツしてた。」

落ち着いた直哉は、二人の会話を静かに聞いていた。すると何かに気づいたのか話に割って入ってきた。

「あの、左手で腕を掴んだんですか?」

「当たり前じゃない。左の腰を刺されたんだから。」

と蘇芳は左のわき腹と腰の間をさすりながら言った。

「それに…。」

と蘇芳は続けようとした。だが急に会話が失速した。

「あ…でも命は助かったんだしもういいわ。帰って。もう私に関わらないで。帰ってよ。」

一ノ瀬が病室を出る間際、“最後に”と振り返った。

「鶴橋葵と言う方を知っていますか?」

「知らないわよ。誰?」

蘇芳は、ぶっきらぼうに答えた。

「先生、鶴橋葵は右利きです。僕と争ったときネックレスが切れたんです。それを鶴橋は右手で拾いました。」

病室を出たあと二人は足早に廊下を歩き出した。

「うん…。よし鳩羽さんに会いに行こう。」

「え?蘇芳のこと伝えるんですか。」

「まあな。生きてるってことだけは伝える。まずは安心させてやらないと。それに聞きたいこともあるし…。」

何か考えがある様だった。直哉もひとつ気になることがあった。

「…あの、僕もひとり気になる人が…」

一ノ瀬は、目を大きく見開いた。