一ノ瀬と直哉は、うえはら美容クリニックの扉を叩いた。

「すみませ―ん!お荷物で―す。」

二人は、配達員に扮してもぐり込んだ。すると奥から一人の看護師が小走りで近づいてきた。

「ご苦労様です。暑かったでしょう?」

「ええ、でもあなたの笑顔は暑さ以上に僕を狂わせる。」

一ノ瀬は、看護師に近づくと手を握ると同時に名刺を相手のポケットに滑り込ませた。直哉は、一ノ瀬のくさい台詞に身震いしたが看護師の方は頬を赤らめ満更でもなさそうだった。

クリニックを出ると直哉が一ノ瀬に尋ねた。

「何で直に院長を仕留めなかったんだ?」

「大きな獲物を仕留めるにはまず周りから攻略しないとな。」

一ノ瀬は、ウインクしサッサと車に乗り込んだ。

そして近くのカフェに移動した。一ノ瀬は、コーヒーを頼んだ。直哉は、アイスティーと一ノ瀬が無理矢理頼んだケーキを食べることになった。

「甘いものは、疲れを取るから有り難く食べなさい。」

「いらねぇって。」

直哉は、しょうがなくケーキを一口食べた。意外にも甘さ控えめでおいしいものだった。

「うまっ…フン…」

自分の意に反して言葉が出てしまい急いで口を手で塞いだ。

「だろ?ここのケーキは、おすすめの一品だ。僕のお気に入り。」

一ノ瀬は、ニコッと笑い口を開けた。

「なに?」

「僕にも。」

直哉は、周りを見渡すと女性たちがこちらを見ていた。

「嫌です。見せ物じゃないですから。」

「釣れないなぁ。…じゃあ。」

一ノ瀬は、直哉の頬を片手でそっと包むと親指でついたクリームを拭い自分の口に運んだ。

「なっ!?」

「…うまい。」

言い返そうと一ノ瀬の方に身を乗り出したとき

プルル…

一ノ瀬のケータイがなった。ウインクし一ノ瀬は、ケータイのメールを開けた。

院長先生は、21時にはお帰りになるのでそれ以降ならいつでも空いてます。一ノ瀬さんとのお食事、楽しみにしています。
              徳世舞子

「あの、看護師からだ!」

「なっ?院長が、あのクリニックを出る時間が分かるだろ?」

「どうやったんだ?」

「お前には、まだ早い。」

直哉の鼻を指で挟み一ノ瀬は笑った。