「え!?詐欺?」

バイクが、大きく左右に揺れた。鳩羽と別れそのまま直哉は、家に送って貰っていた。

「ああ…たぶんな。」

「根拠は?」

「まず、写真だ。鳩羽さんが提出した彼女の写真。真っ正面から写したものが一枚もなかった。白田さんも言ってただろ?顔を見られたくなさそうだったって。要するに顔を覚えられたらまずいってこと。
そして三十万円のこと。前にワイドショーで見たことがある。親、兄弟が入院してるからお金を貸して欲しいって金持ってるオヤジに近づいた女の話。その内容とソックリなんだよ。」

「でも似てるだけなんだろ?それにもし詐欺だったらあの人…。」

東雲は、黙りこんだ。直哉も東雲の背中を見つめていた。

それから直哉の家まで沈黙が続いた。夜風が冷たく頬を横切って行った。

直哉は、ベッドに倒れこんだ。一日があっという間に過ぎて行った気がした。いつの間にか瞼が瞳を被っていた。

気がついたら朝になっていた。時計を見ると7時を少しまわっていた。階段を降りて風呂場に行った。シャワーを浴び浮いた汗を流した。浴び終わり外にでた。すると母が階段を降りてきた。

「直くん、おはよう。昨日疲れきってたけど大丈夫?」

「ああ…うん。大丈夫。」

「…そう。ならいいの。朝御飯にしようね。」

フッと母は笑いキッチンへと歩いて行った。ここ最近、母はいつもあの笑顔を直哉に向ける。彼女は、僕をどう見なしたのだろう。彼女は、悟ったのだろうか。僕が聞き分けのない息子だと。もう手をかけるのは無意味なのだと。

僕の中の幼い日の僕が呟いた。

“もう愛してくれないの?お母さん。”

なんだかんだ時間は、10時を指していた。すると玄関のチャイムがなった。

「な―お―や―く―ん!あ―そ―び―ま―しょ―!!」

急いで玄関へ走った。

「やめろ!ここは、そこらの住宅街とは訳が違う!」

やはり東雲だった。愛車で家の前に乗り着けていた。

「これぐらいしないと直哉様は急いでくれないかと。せっかく迎えに来てやったのに待たされちゃあな。チャリ、一ノ瀬ん家だろ?」

東雲は、顔を近づけ小声で言った。周りでは奥様連中がひそひそ話しながらうちを見ていた。

はっと後ろを見ると母親もキッチンのドアからこちらを見ていた。まず直哉に来客ということが珍しいからである。

すると東雲は奥を覗き母に向かって

「おはようございます。直哉くんと同じクラスの東雲と言います。直哉くんを迎えにくる約束をしていたもので。朝早くすみません。」

ペコッと会釈をし満面の営業スマイルを見せた。母は、びっくりした様子で頭を下げた。

「じ…じゃあ、行ってくる。遅くなるときは連絡する。」

母は、面食らった様子で

「行ってらっしゃい。」

とだけ言った。