「なあ。」

東雲が、話しかけた。

「なんだ?」

直哉は、背中ごしに応えた。

バイクの音と風の音が絡みあいようやく聞き取れるくらいだった。

「何かわかったのかよ。」

「いいや。でも彼は嘘をついていないってくらいはわかった。」

「で?次はどこへ行けば?」

「鳩羽さんに会う。駅前のファミリーレストラン行ってくれ。」

「またかよ!ドリンクバーで腹一杯になる。」

「仕方ないだろ。鳩羽さんの帰り道にある場所なんだから。呼び出しといて向こうに迷惑かけられない。」

すると東雲が、ククッと笑った。

「何だよ。」

「水柿ってさ。以外な所、義理堅いんだな。」

「…え?」

「いや。人間味あるんだなぁって。」

「東雲も。」

「…あ?」

「東雲も笑うんだな。…人間味あるな。」

直哉も自然に笑顔が漏れた。

「…あと。」

直哉は、付け加えた。

「初めて名前呼んだな。…お互い。」

ファミリーレストランに着くと鳩羽は先に着いていた。

「すみません。お待たせして。」

「いえ、こちらこそ時間を合わせてもらって。」

「改めまして『天の邪鬼』の水柿とこちらが東雲です。」

「鳩羽直久です。前に会った一ノ瀬さんは?」

「一ノ瀬は、別の者と蘇芳さんの部屋を見に行ってます。私たちが、お話を伺うよう言われています。」

「そうですか。で何をお話すればいいでしょうか?」

「まず蘇芳さんについて伺ってよろしいですか?」

「茜とは、去年の秋に友人のひらいた合コンで知り合いました。彼女が少し年上だったけど話も合って。そして付き合うことになったんです。彼女、入院しているお母さんがいて大学には行かず就職して働いていて。とても心優しい人なんです。どうか見つけ出して下さい!」

鳩羽は、目を潤ませ今にも泣き出しそうだった。

「落ち着いて下さい。」

直哉が、言うと鳩羽は力なく席についた。

「…初恋だったんです。」

蚊の鳴く声で鳩羽は言った。

「え?」

「初恋だったんです。僕は、中高男子校で初めて付き合った女性が茜でした。彼女は、大切な人なんです。もし彼女に何かあったら僕…。」

鳩羽の顔は真っ青だった。これ以上話すのは無理だと判断しまた後日ということになった。

鳩羽が、その場を去ろうとしたとき直哉が呼び止めた。

「鳩羽さん!あとひとつだけ。」

「何でしょう?」

「茜さんにお金を貸したりしましたか?」

「え?…ああ1月ぐらいだったかな。彼女のお母さんの容態が急変したとかでお金をすぐに用立てないといけないって。少しですけどバイトで貯めた三十万円を渡しました。それが何か?」

「いえ、ありがとうございました。」

鳩羽は、会釈し去っていった。