一ノ瀬は、お茶を一口飲んだ。そしてゆっくり口を開いた。

「お前たちは、男女平等についてどう思う?」

何を言っているんだ、この教師?直哉は、唖然としていた。あとの二人も意味が分からず首を傾げていた。

「近年、女性の社会進出が進み女性が一個人として認められている。すばらしいことだ。だがそれが最近、一部の女たちによって悪用されてきている。例えば…」

一ノ瀬は、一冊のファイルを取り出した。開くと新聞の切り抜きが保存されていた。

パワハラ 痴漢の冤罪 etc.

といったものだった。

「これが、どうしたんだよ。」

東雲が言うと一ノ瀬は

「良く読んでみろ。」

とだけ言った。

東雲が、記事に目を下ろした。直哉たちも横から覗きこんだ。ある記事によると、女性の上司が新人男性社員に対し

役に立たないはね。男の癖に

こんなことも出来ないの?男の癖に

となじって来たという。

「なんだよ。こんなの男の方が根性ないだけじゃん。」

東雲が言うと

バンンンッッ!!…

机を叩き青年が立ち上がった。

「あなたに何がわかるんだ。世の中、あなたみたいにハッキリものが言える人ばかりじゃないんだ!心を針でチクチク刺される感じ…最初は皮が捲れるくらいだけど何回も何回もされるとやがて出血し始める。君たちに何がわかる!!」

青年は、鼻水と涙でグチャグチャだった。東雲も何も言えず黙っていた。

一ノ瀬は、青年の背中をさすりながらこう言った。

「世の中には、自分で声を上げられず困っている男性がたくさんいる。もう男が強く女が弱い時代は終わったんだよ。」

“男が強く女が弱い時代は終わった”

直哉は、同じような言葉を耳にしたことがあった。母の言葉とそっくりだった。誰にも相談できず、自分の中に溜めた結果爆発した母と同じだった。

青年が、落ち着きを見せたところで一ノ瀬はこう切り出した。

「私たちで彼らを救わないか?」

直哉たちは、一ノ瀬を見た。一ノ瀬は、一人一人の目を真っ直ぐ見て言った。

「世の中の一部の卑劣な女たちによって心に傷をおった男性のかわりに俺達が復讐という救いの手を差しのべるんだ。」

一ノ瀬の声は低く、決意のこもった物だった。

「でも…どうやって?」

直哉が、言うと二人も頷いた。

「依頼をつのるんだ。SNS でね。」

「そう簡単にいかないだろ?」

と東雲。

「大丈夫。幾つか考えている案がある。そしてこの会は、会員制にする。それによってセキュリティもしっかりするはずだ。」

「無理…だよ。」

直哉が、呟いた。すると一ノ瀬が、静かに言った。

「やる気の無い奴に無理強いするつもりはない。だが何も行動を興さずただ女性を見下すような奴は大嫌いだ。そして憎む様な奴も。」

「クッ…。」

直哉は、何も言い返せなかった。

「俺…やるよ。」

後ろから声が聞こえた。東雲だった。

「僕も…。」

青年も。

「…やればいいんだろ。俺は、自分を人に決め付けられるのが嫌いだ。女を見下した訳じゃない。」

ではと一ノ瀬が、水の入ったグラスを持ち言った。

「今日より水柿直哉、東雲隼人、若芽岳の3人を『天の邪鬼』のメンバーとする!よろしくな。」

ニカッと笑うと一ノ瀬は、水を飲み干し

「為せば成る為さねば成らぬ何事も。ってなっ。」

と言った。

直哉は、この活動にどのような意味があるのか分からなかった。自分の中に渦巻く暗い霧を晴らす答えが見つかるのだろうか?不安しかなかった。

秘密結社『天の邪鬼』は始動し始めた。このメンバーがヒーローに成れるはずもない。これが今の正直な気持ちだった。