撮影の前日がきた。確認の電話は自宅に20:30分の約束。受話器を握る手に力が入る。(よし、20:30分だ。)名刺の番号をプッシュする。1コール、2コール・・・
「はい、原田です。」
出た、彼の声だ。
「お疲れ様です、葵です。」
「あぁ、お疲れ様です、原田です。」
彼の少し高い優しい声に癒される。
「明日、大丈夫?」
「私は大丈夫。原田さんは?」
「自分も大丈夫。映画は観てくれたかな?」
「観た。確かに少し過激だったけどね。」
彼の勧めた映画は、渋谷を舞台に売春婦を探すハートフルな映画だった。
「私のお勧めは観てくれた?」
「観たよ。オープニングのセリフで笑ったよ。」
良かった。彼は嘘つきではない。信用していない訳では無いが、安心した。
「じゃ、明日9:00時にハチ公前で。」
「はい。」
「じゃ、おやすみなさい。」
「はい。おやすみなさい。」
電話が切れた。
こんなに優しい「おやすみなさい。」は初めてだ・・・
おやすみなさい・・・おやすみなさい・・・心の中で呟いた。