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潮風の匂い。
足を踏み出すとザクザクと音を立てる砂。
海だ。
穏やかな波から弾ける少しの水しぶきも、とても美しい。
ふと、右手に感じる暖かさに気づく。
私の手は、大きな男の人の手に繋がれていた。
父の手。
砂を蹴る自分の足は、すごく小さい。
父との身長差も、かなりのもの。
ああ、そうか、これは
昔の記憶なんだ。
おそらく、夢だ。
私が父を仰ぎ見ると、父はにっこりと微笑んだ。
なんて、暖かいんだろう。
海に視線をうつすと、キラキラと輝く海面が私の心を掴んで離さない。
衝動で、海に駆け出した私は、砂に足を取られて大胆に転んでしまった。
頬に砂がこびりつき、痛い。
起き上がろうとした時、後ろから父が私を名前で読んだ。
「花歩」
私のところに駆け寄ってきた父に、すがるように手を伸ばした。