その男は奏兵と同じ制服を着ていた。


「明音のお友達?」


彼は奏兵に人差し指をむけた。



「あ、同じ軽音部の篠宮 奏兵君だよ。」

「俺は明音の幼馴染の瀬名 伊織です。
よろしく」



伊織は満面の笑顔を奏兵にむけた。


「よろしくお願いします…」
小さく頭を下げる奏兵。




明音と香苗は今日も屋上でお弁当を食べていた。


最近晴れの日が続くので屋上で食べていたらそれがいつの間にか習慣になっていた。



「明音、先輩達もうすぐ卒業だね……」


香苗が小さな声でつぶやいた。


「だね……私達、先輩達になんの恩返しもできてないよね」


すると「バンッ!!!」と屋上のドアが勢い良く開く音がした。



「翔太?何事?」


ドアの前には息を切らした翔太がいた。


香苗が声を掛けると、翔太は一枚の紙を見せた。



「え、歌詞出来たの⁉︎」


私と香苗は声を揃える。


「まぁな、提案かあるんだけど、この歌を卒業する先輩達に歌いたいんだ。」


「それ、いいね!!」

またまた私と香苗は声を揃えた。



先輩がいなくなったら作詞は翔太で作曲は私がする予定だった。



私も実は幼稚園の頃からピアノは習ってたんだよね♪



先輩達がいなくなっちゃうのはさみしいけど…先輩達を嬉し涙で泣かせたい!!!





そして毎日練習をして
あっという間に卒業式前日の夜。


(やっと明日かぁ……)

明音はお風呂上がりにベランダで携帯をいじりながら涼んでいた。


「いーちゃん!!こんばんわ!」

向かいには丁度伊織がベランダにいた。


伊織もお風呂上がりだったようで片手にはミルクココアをもっていた。


すぐ隣の家なのでベランダからでも話せるくらいだ。


「明日卒業式だね……
いーちゃんも大学生かぁ…」


伊織は高校3年生だ。

なので学校でも会えなくなってしまう。


「そんな悲しむなよ
こうやってベランダで明音と話すだけで俺は十分嬉しいしな」



「あ、そう言えばいーちゃん
澪先輩に告ったの?」


いきなりの言葉に伊織は次第に顔が赤く染まっていった。



「ばぁぁぁかっ!!!!」



溜め込んだ声を一気に吐くと
大きな声が庭に響いた。


「いきなり、なに!!
近所迷惑!てか、なんで告らないわけ、ずっと好きなんでしょ?」



そう、いーちゃんは軽音部の澪先輩が大好きなんです!!!



伊織は明音から目をそらしてココアを飲み干した。



「…………卒業式に告るから呼び出せ…」



明音は片手をあげて敬礼のポーズをとった。




「ラジャ♪」