「篠宮奏兵です…
これからよろしくお願いします」


奏兵は今日から部活に入部することになった。

「おぉ!来ました男子ぃ!」


この部活の唯一の男子、翔太はガッツポーズをした。


「澪先輩!
奏兵君、とにかく声が綺麗なんです!もぅ天使の歌声みたいで!聴いた人誰もが感動すると思うんですっ」


熱く語る明音にニッコリと微笑む先輩達。

「それは興味深いな、
奏兵、今からなんでもいいから歌えるか?」


「は、はい……」


顔を少し赤らめるながらも
小さく頷く。


普段練習する黒板の前のステージに奏兵は立った。


小さく深呼吸をして、奏兵の口から出て来た声はやはり美しかった。

(いつもの表情とは全く違って切ない顔……

奏兵君の声を私達の演奏に合わせたらどんなになるんだろう)



「人前で歌うのはあまり慣れてなくて……」

少し照れ気味の奏兵は鞄から
水を取り出した。

周りのみんなは、なぜかポカンと口を開けたまんまだった。

「あ、の……すいませんそんなに変でしたか……」


「お前入部届けは出したのか⁉︎」


奏兵の肩を強く揺する部長の澪。



「い、いえ…部長の許可が「いますぐ出してこい!!」


奏兵が言い終わる前に澪が言葉を挟んで来た。



肩を押されて教室から出された奏兵はしょうがなく入部届けを先生に出すことにした。


(なんでだろう…
奏兵君の歌を聴いてるとなんだか胸がドキドキする…)
明音は自分の顔が熱いのに気付いた。







部活も終わり、明音は職員室から戻ってくる奏兵を靴箱の前で待っていた。


「あれ、橘さん…」


「奏兵君、一緒に帰ろ?」


「は、はい!」



いきなりの言葉に顔を赤らめる奏兵だが、心良く引き受けて

2人はゆっくり歩き始めた。



「あの…なんでわざわざ待っててくれたんですか?」


「なんとなく!悪い?」


首をブンブン横に振る奏兵に
思わず明音の口から笑い声がこぼれた。


いつものように他愛ない会話で
明音と奏兵は談笑していた。




「明音」



「あ、いーちゃん!」




明音の家の前までくるとある男
に名前を呼ばれた。