サラサラと流れる水の音が心を洗ってくれそうで、私は草の上に腰を下ろした。
子供達のはしゃぎ声。
水の流れる音。
下校途中の小学生。
もう、ずっと、このまま時間(とき)が止まってしまえばいい。
「何してるの?」
頭の上で声がして、私は顔を上げた。
少女が一人立っていた。
「何してるの?」
もう一度、彼女が言った。
いつもの私ならたぶん無視していただろう。
でも、今日の私にはそれが出来なかった。
何よりもまず、彼女の屈託のない笑顔に、惹かれてしまっていたからだ。

「何って別に……死ぬ方法を考えていたの」
彼女は、しばらく私を見つめていた。
「死にたい理由は?」
そう言って、隣に座り込んだ彼女を横目で見た。紺のブレザーに、チェック柄のスカート。
「卿林(きょうりん)」
私は、この辺りでも有名な音大の付属校の名前を口にした。
「ヤダ…。そんな目で見ないで」
彼女は、クスッと笑った。
「卿林って音大の付属でしょ?ってことは、英語や数学なんてやらなくたっていいのよね。そう言うのって羨ましいわ」
「一応…やってるわよ?だけど、楽譜とにらめっこしてる方が圧倒的に多いかな。人数は少ないけど、普通科だってあるんだから」
それから彼女は、そっと私を覗き込んだ。
「死にたい理由は?」
さっきと同じ問いを繰り返した。
その口調は優しく、私は知らず知らずのうちに口を開いていた。