「発作が起きるといけないから、

 あんまり走ったらいけないし、

 学校にも行けないんだ」


そう言う彼は、

とても悲しそうだった。


「だから…僕は毎日、

 病院で 本を読んでいるだけ」


私は、何て言ったらいいのか

分からなかった。


「僕も……学校に行ってみたい」

そう言って

窓の外を見る涼の表情は、

切なくて。


「君は……」

私は、涼の言葉をさえぎった。


「私は、“君”じゃないよ。

 佐々木 絢香」


「絢香、か。いい名前だね」


……いい名前、って言われたの、

初めて。

「絢香、でいいよ」


絢香。

私のことをそう呼ぶ人は、

お父さんとお母さんだけ。


学校のクラスメイトや先生は、

『佐々木さん』って呼ぶし、

鈴香は『お姉ちゃん』って呼ぶ。