そして、今日は8月初日。 いつも以上に、暑い。 それなのに、あの人はまた、 あの桜の木の下に座っていた。 桜の木の下を通り過ぎようとした、 その時――――。 「ねぇ」 急に彼の声が聞こえて、 私の心臓はドキッと高鳴った。 少し低くて、でも優しい声。 彼の言った言葉が、 私に投げかけられているんだと 気づくまでに、数秒かかった。 だって、お互い名前も知らない仲だもん。 「…………?」 私は何も、言葉を発せずにいた。