私の顔に上川の吐息が触れる。

ここから逃げなきゃ。

この手を離さなきゃ。

そう思うことは簡単だけど、行動に移すことができない。

今ここで上川を受け入れてしまったら、この後はどうすることもできなくなってしまう。

逃げるんだ、私。

離れるんだ、私。

お互いのためにも、早くこの手を振り払うんだ。

頭の中で何度も自分に命令をする。

上川の唇と私の唇が触れるまで、後少し。

ピンポーン

「ちわーっす、お届け物でーす!」

玄関から聞こえたチャイムと威勢がいいその声に、
「はーい!」

返事をしたのと同時に、上川を突き飛ばした。