ビター・スウィート




「あ、えと……」

「おい、勘違いするなよ。既に過去形で、もうそういう気持ちはねーよ」

「え?そうなんですか?」

「あれだけ仲いいあいつらみてたら、そりゃ諦めもつく」



思わず気まずい空気にしてしまった私に、内海さんはしれっと言うとまた横目で後ろを見る。

ぞろぞろと動く傘をさす人々の中に、当然もう花音さんたちの姿はない。



「高校の頃、ガキながらに結構本気で好きで、けど言えなかった。そうしてるうちにあいつは俺の気持ちに気付かないどころか、俺の友達だった裕とくっついた。あの時はまぁ、それなりにつらかったし、悔しかったな」



言えないままの、気持ち。だけど自分の見つめるその人は違う人の方を向いて、こちらに向くことはない。

その悲しさを、切なさを、彼は知っている。



「……あの時の気持ちを思い出すとやっぱり、叶わない恋なんてもうしたくねーなって、思うよ」



雨で、周りの景色が滲む。

そんな中で呟かれた、彼の珍しい小さな声。その一言から、知る。

だから彼は前に、私に『無駄だ』と言ったんだ。



『可能性のないことに縋るのは、アホくさいと思うけどな』



あの時私に言った言葉は、意地悪なんかじゃない。

その心は、終わりの見える恋を知っていたから。苦しさも、つらさも、知っていたから。