ビター・スウィート




「いえ、あの……う、内海さんがさっき『花音』って呼んでましたし……」

「嘘つけ。その前から分かってたような言い方しただろ、今。おい」



一度は誤魔化そうとするものの、内海さん相手に誤魔化そうだなんて考えたこと自体が無意味だった。

足を止めたまま鋭い目つきで私を見る彼に、その言い訳を貫けるわけもなく……。



「……その、実はこの前の出張のときに、内海さんが寝ぼけて『カノン』って呼んでまして……」

「は!?」



恐る恐る正直に話す私に、内海さんは驚きを見せた。かと思えば「はぁぁ〜……」と先程より深い溜息を吐き出した。



「……マジかよ、ありえねー……」



恥ずかしいのか情けないのか、右手でぐしゃぐしゃと髪をかいて顔を背ける彼が呟いたのは、その一言。