「出来ました!」
数時間後の、時計の針が午後十四時を指す頃。
私は自分がいつもいる部屋の隣にある『商品部開発課』と書かれたフロアで、内海さんの机にバサッと書類を置いてみせた。
「おう、早いな」
「お昼抜きで頑張りましたから!」
本気を出せばこんなもんよ!
ふふん、と得意げに笑う私に彼は相変わらずの冷えた瞳で書類に軽く目を通す。
「まぁ、さっきよりはマシだな」
って、やっぱり上から目線……。
『さっきよりは』とか『マシ』とか、もっとまともな言葉は出てこないのだろうか。出てくるわけないか、悪魔だもんね。
諦めのような苦笑いをこぼす私に、彼は書類に視線を向けたまま。
「お前は仕事の出来にムラがありすぎる。気分に左右されすぎなんだよ」
「うっ……」
言われてみれば確かに、広瀬先輩に励まされたり先輩絡みのことで気合が入るとやる気が出るけれど、それ以外の時は手を抜いてしまうことが度々ある。
出来上がったもの一つで、彼はそこまで読み取れてしまうのだろう。先輩に気持ちを左右されているかまではともかく、私のやる気の波も内海さんには丸分かりのようで呆れたようにその黒い瞳は文字をなぞった。
「仕事は出来るんだから手を抜くな。どの仕事も気合入れてやれよ」
「……す、すみません」
あれ……でも、『仕事は出来る』ってことは、社員としての能力は認めてくれているということ?そう思うと、ちょっと嬉しい。
時々、ほんの時々だけど、この悪魔は仕事に関してはきちんと褒めてくれることもある。
少し遠回しな言い方ではあるけれど、日頃叱られてばかりなせいか、ちょっと心がくすぐったい。



