ビター・スウィート




「えーと、好きそうなのはローズ、カモミール、ベルガモット……よしっ、これに決めた。会計してくるね」



妹さんの好みはどことなく把握しているのだろう。サンプルを嗅ぎながら、すぐさま決めると、広瀬先輩はペンダントとアロマオイルのボトルを数個手にレジへと向かって行った。

『喜んで貰えるかな』とでもいうような嬉しそうな顔が可愛い。

……本当に妹さんのこと、可愛がっているんだなぁ。その思いの大きさに、心がほのぼのとする。



「おい、アホ面」

「なっ!失礼な!」



私の緩んだ顔を見逃すことなく隣で呟く内海さんに、折角ほのぼのとした気持ちも消えてしまう。



「もう、何でそういうことしか言えないんですか!」

「お前をみてるとそれくらいの言葉しか出てこないからだ」

「どういう意味ですか……わっ!」



そう反論しながら店内を歩き出そうとしたその時、履き慣れない靴に足元をガクンッとくじき、転びかけてしまう。



「っ……と、」



そんな私の肩を抱くようにして受け止めた、内海さんの腕。

洋服越しに伝わる、その腕のしっかりとした力強い感触。驚きながらも顔を上げれば、すぐ目の前には彼の顔がある。



わ……近い、

思わずドキッと跳ねた心臓に気付くことなく、彼は私が転ぶのを防げたことに安心するように小さく息を吐いた。



「セーフ、だな。ったく、そんなヒールの高い靴履くから」

「す、すみません……」

「気をつけろよ」



心なしかいつもより柔らかく感じられる、言い聞かせるような声。慣れないその声と感触が、内海さん相手にも関わらず心をうるさくさせる。



そっか、広瀬先輩といつもより距離が近いということは、内海さんとも近いということ。

普段は怖いとしか感じられないけど、咄嗟にしっかりと抱きしめてしまうあたりが、やっぱり男の人だなぁ……。