それから私は泣く泣くあの悪魔……内海さんに押し付けられた仕事に追われ、ひたすら書類とパソコンと顔を見合わせカタカタと指先を動かした。
私にだって自分の分の仕事があるのに。他の人に任せればいいじゃんか!鬼!悪魔!
でも明日までに間に合わなかった時のことを考えると……
『あぁ?間に合わなかった?ふざけんな、仕事ナメてんのか!!』
簡単に想像出来てしまう、また怒鳴りながら目をつり上げる彼の姿。
思わずゾッとして、やらなければという気持ちにさせられる。
そして、カタカタ……タン、と区切りのいい所まで打った内容に、何気なしにオフィス内の時計を見上げれば、短い針は『10』の数字を指していた。
もう二十二時。そろそろ帰らないと、でもまだ終わってないし……帰るか、残るか、うーんと頭を悩ませる。
「永井?」
静かな室内で突然呼ばれた名前に目を向けると、そこにはドアを開け少し驚いた顔でこちらを見る内海さんがいた。
相変わらずその首元にネクタイはなく、ボタンが二つほど開かれている。
「内海さん。残ってたんですか?」
「あぁ、商品会議の後に色々やることがあってな」
話しながら彼は、私の手元に視線をとめる。
「お前……はまだそれやってたのか。適当な所で切り上げりゃいいのに、意外と真面目だな」
「えぇ!?」
う、内海さんが明日までって言うからやってたのに……!
明日までが無理なのは、彼自身も分かっていたのだろう。それを本気にして残っていた自分が悲しい。



