「……こんな嫌がらせしたって広瀬先輩は内海さんのものにはならないんだから」
「は?」
思わずぼそ、と呟いてしまった心の声にハッと口を塞ぐものの彼にはバッチリ聞こえてしまったらしい。怪訝そうに顔を歪めて内海さんは問い返す。
「今、何て言った?広瀬が俺のものに、とか言ったな?」
「え!?あ、いや、その……」
「ほー……わかった。つまり俺に広瀬とのことを口出しされたからって、俺と広瀬がデキてるだとかそういうくだらない噂で遊んでるってわけか」
冷静に現状を理解するように言うもののその声は穏やかとは程遠く、恐る恐る顔をみれば、それはこれまでにないほど怒りに満ちた表情で……。
「んな暇があるならさっさと仕事に取りかかれこのバカ!!!」
「ぎゃんっ!!」
怒鳴り声とともにその拳は勢いよく私の頭をゴンッと殴った。
「ったく、次んな噂したら九州の支社にとばすからな!!」
そして彼は痛みにうずくまる私を気にすることもなく、ズカズカと部屋を後にした。
「いったぁ〜……」
あの人絶対本気で殴った……!
普通女相手に殴る!?あの人、広瀬先輩のこととか抜きに個人的に私のことが嫌いなだけだよ!!
「大丈夫ですかぁー?ちー先輩。だからホモとかありえないって言ったのにぃ〜」
「って菜穂ちゃんが言い出したのに!?裏切るの!?」
彼が去ったあとのその場には、大きなたんこぶと大量の書類が残されていた。



