「……そうやって遠目から見てた私は、面白かったですか?」
「え?」
「全部知ってたんですよね?広瀬先輩の彼女のことも、結婚のことも」
足を止めて言った言葉に、彼も足を止めこちらを振り向いた。真っ直ぐに見つめれば、その真っ黒な瞳は驚く様子もなく私を見つめ返した。
そよ、と吹く風に黒い毛先が揺れる。
「あぁ、知ってたよ。知ってたうえで、黙ってた」
「なっ……!」
「俺が言ったところで、お前は受け入れて納得出来たのか?」
言い訳もせず、真っ直ぐにその言葉はこちらに向き合ってくる。
「……それは、分からないですけど」
もし、内海さんから『彼女がいるから諦めろ』、そう言われたとして、私は受け入れられた?
簡単には受け入れられないかもしれない。目を背けて、結局泣いたかもしれない。



