アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】

 それでも何事もなく、日々は過ぎて行く。


取り越し苦労だったようだ。
そう思った矢先のことだった。
シンクロナイズスイミングの選手として抜擢されたのだ。


少年院では体育行事の一環として水泳大会を行っているそうだ。
クロールや平泳ぎなどの競泳やシンクロナイズスイミングなどもあるそうで、やってみないかと言われたんだ。
勿論即決だった。
島育ちの僕は泳ぎが得意だったのだ。




 シンクロナイズスイミングは映画を見たことがきっかけで始まったようだ。
これまで何一つ成功したことのないと思っている少年達に打ち込める場所を提供した訳だ。


それは少年達に二度と非行に走らせないための責任感や協調性を養わせるのが目的だったそうだ。


教官のそんな言葉が僕のヤル気スイッチを押したんだ。
実は、まだ同室の少年達とは馴染んでいなかったのだ。


良いきっかけになってくれたらいい。
そんな思いで引き受けたのだ。




 シンクロナイズスイミングの練習は六月から週四回のペースで概ね一時間程度だった。


島の母に心配を掛けたくなかったから、島育ちだったことは隠していた。


でもきっと調べたのだろう。
僕が泳ぎが得意なことを知っていたのだ。


だから教官が推奨してくれたようだ。


僕は少年院に入所してまだ日が浅い。
六月から練習している皆とかなり出遅れている。
それでも敢えて推奨してくれたのだ。


僕は素直に、鉄管ビールの一件などもあったから早く馴染ませようとしてくれたのだと思っていた。


実はシンクロナイズスイミングをやっている子供達は問題児が多かったのだ。
教官は本当は僕も問題児の一人だと思っていたのかも知れない。