アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】

 そう、あれは……
大好きだった清水さん一家と長瀞で遊んだ帰りだった。


だからなのだろうか?
僕は又清水さんに逢いたいからあの夢を見ているのだろう……


それ以外思い付かない。
僕はそれくらい清水が大好きだったのだ。


そう……
悪夢なども恐れないほどに……




 母は偶々上野駅で僕を見つけて急いで後を追ったそうだ。


『一目で行方不明になった息子だと解った』

声を掛けられた時にそう言った。

僕があまりにも父親に似ていたからだそうだ。
それともう一つ。
その時身に付けていた物を指摘された。


って言うことは、この人は間違いなく自分の母親だと直感した。


僕は島の人達に聞かされていたんだ。
身に付けていた迷子札のことを……
だから、それを知っている女性を母親だと信じたんだ。


いや、今だって信じている。


だから、僕が母を殺してしまった事実を認めたくないんだ。




 でも僕は母を殺す前にもう一人の男性を殺してしまっていた。


ソイツは母を付け狙っていたストーカーだった。


母が以前付き合っていた男性で、しつこく付きまとっていたようだ。


母はその人の影に怯えていた。
何時か殺されると真剣に悩んでいたのだ。


だから僕に声を掛けた時躊躇したそうだ。
僕まで巻き込まれる可能性があるからだそうだ。




 でも、その翌日事件は起きた。


「ギャーーッ!?」

夜が明けると同時に悲鳴が聞こえた。

慌てて目を覚ますと、僕は震えている母の傍で血の付いたナイフを持っていた。


何が何だか判らない。
でも僕は殺人罪で逮捕されてしまったのだった。


母と再会したあの日の内に、僕を育ててくれた島の母に連絡した。

母と出会ったことと、島へ帰る日が遅くなることを告げるためだった。


でもその後、連絡が取れなくなってしまったのだった。


いや、敢えて取らなかった方が良いと考えたんだ。

前科は付かなくても、犯罪を犯してしまった事実を知られたくなかったのだ。