(あの子は一体、何故あんなに暗い目をしてるの?)

父の仕事の都合で埼玉の中学に転校して来た時から気になっていた。
佐々木綾(ささきあや)の瞳に……

輝きのない眼光。
おどおどしているような落ち着きのない態度。
それらは離島から引っ越して来た私の目には異様に映っていた。


クラス全員で無視するとかの虐めだと思っていた。
でもそれは違っていた。
そんな気配が全くなかったのだ。


(この子を苛めるヤツは私が許さない)
何て思っていたから拍子抜けを食らった。


私は何時しか彼女に興味を持ち始めていた。
だから友達以上の存在になりたくなったのだ。
本当は私が守ってやりたくなっただけなんだけど。


実は私は小さい頃から古武道を習っていて、空手も合気道もそれなりの知識はあった。
だから怖いものなしだったのだ。


私が産まれ育ったのは平家の落人伝説が色濃く残った島で、源氏の追撃を交わすために体自体を武器としていたのだ。
それは例え襲われたとしても、自らの力で逃げ切れるだけの物を身に付けさせる島独特の風習だったのだ。


私はそんな地元民の中でも成績優秀だった。
だから余計にひ弱そうな彼女が気になったのかも知れない。


私は何時の間にか、彼女から目が離せなくなっていた。




 でもその原因は卒業式で判明した。
母親と一緒だったのだ。


(よっぽど辛いことがあったのだろう?)
そう思っていた。


そんなこともあって、私は益々彼女を意識する羽目になったのだった。


彼女はスマホもガラケーも持っていない。
普通の女生徒だったら親が心配してGPS付きのを持たせてやるだろう。


『高校生に携帯電話なんかは要らない』

担任が仲間外れなどを警戒して進言した時、父親はそう言ったそうだ。

愛していないんだ。
素直にそう感じた。


聞けば彼女は一人娘だと言う。
幾らお金がないと言っても、何十万も払う訳でもあるまいに……

虐められたらどうする気なんだろう?

きっと訴えても聞く耳も持っていないのだろう。


そんなことを考えているうちに、急に彼女が哀れになった。


きっと、母親も何も言えないのだろう。


旦那に気を遣ってひっそりと生きてきたのだろう。


そうでなきゃ、母娘のあの眼は説明出来ない。
本気でそう思っていた。